脱炭素時代の必須人材。ZEBのコラボレーションを実現する「BIMマネージャー」
脱炭素社会の実現に向け、建築業界ではZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)や高性能な省エネ建築の設計が、もはや特別な取り組みではなく、標準的な要件となりつつあります。この目標を達成するためには、設計の初期段階で建物のエネルギー性能を正確に予測し、意匠や設備計画に反映させる「フロントローディング」が不可欠です。
そして今、この重要なプロセスを技術とマネジメントの両面から支え、成功に導くキーパーソンとして「BIMマネージャー」の役割が、かつてないほど重要視されています。本記事では、脱炭素時代に求められるBIMマネージャーの新たな職務と真価について解説します。
BIMマネージャー:単なる「形状」から「性能・属性」の管理者へ
かつてBIMマネージャーの主な役割は、CADマネージャーから発展したもので、モデリングのルール整備やテンプレート作成、ソフトウェアの技術サポートなどが中心でした。いわば、建物の「形状」情報を正しく、効率的に作るための管理者でした。
しかし、ZEBや省エネ設計が主流となる現在、その役割は大きく進化しています。建物の3D形状に、断熱材の熱貫流率(U値)や日射熱取得率(ηAC値)、使用する建材の環境負荷データといった「性能・属性情報(メタデータ)」を正確に付与し、管理することが求められるようになったのです。
この精緻な属性情報があって初めて、BIMモデルは省エネ計算や各種シミュレーションに耐えうる「デジタルツイン」となり得ます。BIMマネージャーは、単なる形状の管理者から、建築物の価値そのものを左右する性能情報の管理者へと、その役割をシフトさせているのです。
ZEB・省エネ設計におけるBIMマネージャーの具体的な職務
では、ZEBや省エネ設計のプロジェクトにおいて、BIMマネージャーは具体的にどのような役割を担うのでしょうか。その職務は多岐にわたります。
1. フロントローディングを実現するワークフローの構築
省エネ性能は、企画・基本設計段階の検討でその大枠が決まります。BIMマネージャーは、この超初期段階から省エネ計算や日照シミュレーションが行えるよう、BIMモデルの作成ルールを定義します。例えば、「この段階では、このレベルの情報を、この属性項目に入力する」といったワークフローを構築し、設計チーム全体に浸透させます。これにより、手戻りのない効率的なフロントローディングが可能になります。
2. 省エネ計算と連携する「属性情報」の標準化
省エネ計算に必要な属性情報は多岐にわたりますが、それらが設計者によってバラバラに入力されては意味がありません。BIMマネージャーは、計算ソフトとの連携を見据え、入力すべき属性情報の種類、単位、命名規則などを標準化します。そして、それらが入力しやすいようにカスタマイズされたテンプレートやライブラリを整備・提供します。
3. データ連携の品質管理とハブ機能
作成されたBIMモデルのデータは、IFC(Industry Foundation Classes)形式などを介して、さまざまな省エネ計算ソフトやシミュレーションツールに渡されます。このデータ交換がスムーズに行われ、情報が欠落・劣化しないようにプロセス全体を管理するのもBIMマネージャーの重要な役割です。意匠・構造・設備の各担当者と省エネコンサルタントの間をつなぐ、情報連携のハブとして機能します。
脱炭素時代に求められる新たなスキルセット
このような高度な職務を遂行するため、BIMマネージャーには従来のスキルに加えて、新たな専門性が求められます。
- 技術的知見: BIMソフトウェアの深い知識はもちろん、建築物理や省エネ計算に関する基礎知識、各種シミュレーションツールの特性、IFCスキーマへの理解。
- マネジメント能力: 複数の専門分野(意匠、構造、設備、環境)にまたがる複雑なワークフローを構築し、管理する能力。
- コミュニケーション能力: 各分野の専門家の要求を正確に理解し、技術的な言語を翻訳しながら、プロジェクト全体を円滑に調整する力。
結論:BIMマネージャーは企業の未来を担う戦略的人材
BIMマネージャーは、もはや単なる一技術担当者ではありません。
ZEBや省エネ設計といった現代的な要請に応え、建築物の環境性能と資産価値を最大化し、企業の競争力をも左右する、極めて戦略的なポジションです。
その重要性が正しく評価されず、役割が曖昧なままでは、これからの脱炭素時代を勝ち抜くことは困難でしょう。経営者やプロジェクトリーダーは、この「必須人材」の価値を深く認識し、その育成と確保、そして権限委譲に積極的に取り組むべき時が来ています。