既存建築をZEB化するための完全ガイド:計画、設計、評価手法まで
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、建築物分野の省エネルギー化は喫緊の課題です。特に2025年4月からは、原則として全ての建築物で省エネ基準への適合が義務化されます。新築物件の省エネ性能向上が進む一方で、国内の建築物ストックの大部分を占める既存建築物の対策は、目標達成の鍵を握っています。
本記事では、建築・不動産業界の専門家やオーナー、自治体関係者の皆様に向けて、既存建築物をZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化するための具体的な進め方、計画策定の重要性、そして省エネ性能評価手法の一つである「標準入力法」活用のポイントを徹底解説します。
なぜ今、既存建築物のZEB化が重要なのか?
国内のエネルギー消費量の約3割を占める建築物分野において、その大部分を既存建築物が占めています。これらの多くが2050年時点でも引き続き使用される見込みであるため、既存建築物のエネルギー効率を改善しZEB化を進めることが、カーボンニュートラル達成に不可欠です。新築だけでは、全体のエネルギー消費量削減効果は限定的であり、既存ストックへの対策が急務となっています。
既存建築物ZEB化の基本的な進め方
既存建築物のZEB化は、以下のステップで計画的かつ段階的に進めることが効果的です。
- ZEBチームの構築: 関係各部署(環境部門、営繕部門など)と専門家(ZEBプランナーなど)による推進体制を構築します。担当者の負担軽減とノウハウ共有に繋がります。
- ZEB検討建物の選定: ZEB化の可能性がある建物をリストアップし、優先順位をつけて絞り込みます。
- ZEB化改修計画の作成: 選定した建物に対し、ZEB化の可能性や具体的な手法を検討します(ZEB化可能性調査)。
- ZEB化実施(設計・施工): 計画に基づき、詳細設計を行い、改修工事を実施します。
- ZEB運用・評価・改善: ZEB化した建物の運用状況をモニタリングし、効果検証と改善を行います。
- ノウハウ展開: 得られた知見を活かし、他の施設へのZEB化を推進します。
特に、ZEBプランナーなどの専門家を交えた「ZEBチーム」の構築は、技術的・事務的両面からのサポートを得られ、プロジェクトを円滑に進める上で非常に重要です。
ZEB化改修計画(ZEB化可能性調査)作成のポイント
ZEB化の成否を左右するのが、初期段階での「ZEB化改修計画」です。この計画で、ZEBのクラス(『ZEB』、Nearly ZEBなど)、具体的な省エネ手法、経済性、スケジュールを明確にします。
計画で検討する主要項目:
- 外皮性能向上(断熱強化など)の手法
- 高効率な空調・換気・照明・給湯設備の選定と改修内容
- 再生可能エネルギー設備(太陽光発電など)および蓄電池の導入検討
- 建築研究所計算支援プログラム(標準入力法)を用いたZEB評価
- 概算事業費、省エネ量、CO2削減量、投資回収年数などの経済性評価
- 活用可能な補助事業の検討
- ZEB化改修の具体的なスケジュール
計画作成に必要な資料例:
- 建物竣工図(意匠図、構造図、機械設備図、電気設備図など)
- 過去3年程度のエネルギー種別ごとの月別使用量データ
- 主要な設備の管理台帳、点検記録
計画作成における留意点:
- 詳細設計入札前の計画作成: ZEB化改修計画の成果物(BEI計算書、仕様書、配置図など)を設計入札時の資料として提示することで、入札参加者の理解度が深まり、より質の高い提案が期待できます。
- 計画作成事業者の選定: 専門性と経験が求められるため、価格だけでなく提案内容を重視するプロポーザル方式での選定が望ましいです。
- 「標準入力法」活用の品質確保: 仕様書(案)によっては、標準入力法の入力項目を不適切に簡素化したり、非現実的な数値を入力したりするケースが見受けられます。これはZEB化の実現性を損なうため、入力根拠の明確化や現実的な改修内容に基づいた評価が不可欠です。標準入力法は、単なる計算ツールではなく、計画の妥当性を検証し、実効性を高めるための重要なプロセスと認識しましょう。
- 建物選定と計画策定の連携: ZEB化対象建物の選定段階から施設担当者と密に連携し、現状の課題や運用実態を共有することが、実効性のある計画策定に繋がります。調査担当者による現場確認も重要です。
ZEB化設計の考え方
ZEB化設計は、以下のステップで進めるのが基本です。
- 負荷削減の徹底 (ZEB Ready達成が目標): まず建物の断熱性能向上、日射遮蔽、自然通風・採光の活用、高効率な換気(全熱交換器など)、LED照明化などにより、エネルギー負荷を極力削減します。
- 高効率な設備システムの導入: 削減された負荷に対し、高効率な空調機、給湯器などを選定します。汎用性の高い設備の採用は、初期コスト抑制や維持管理の容易さに繋がります。
- 再生可能エネルギーの導入: 上記でエネルギー消費量を削減した上で、敷地内で導入可能な太陽光発電などの再生可能エネルギー設備を検討し、Nearly ZEBや『ZEB』を目指します。
- BELS評価: これらの結果を総合的に評価し、建築物エネルギー消費性能表示制度(BELS)におけるBEI(Building Energy Index)値0.5以下を目指します。
既存建築ZEB化で得られる多様なメリット
既存建築物のZEB化は、初期投資を伴いますが、以下のような多くのメリットをもたらします。
- 大幅なCO2排出量削減
- 光熱費の大幅な削減(補助金活用で投資回収年数の短縮も可能)
- 将来の設備更新費用の削減(空調機のダウンサイジングなど)
- 知的生産性の向上に寄与する快適な室内環境の実現
- レジリエンス向上(太陽光発電と蓄電池による非常時のエネルギー確保)
- 建物の資産価値向上
まとめ:未来への投資としての既存建築ZEB化
2025年4月からの省エネ基準適合義務化は、既存建築物のオーナーや管理者にとって、エネルギー性能向上への取り組みを加速させる大きな契機です。既存建築物のZEB化は、法規対応に留まらず、光熱費削減、快適性向上、そして建物の資産価値向上にも繋がる未来への投資と言えます。
成功の鍵は、専門家を交えた「ZEBチーム」による推進体制の構築、実現可能性の高い「ZEB化改修計画」の策定、そして「標準入力法」などを活用した適切な省エネ性能評価です。
ぜひこの機会に、貴社・貴団体の所有・管理する建築物のZEB化に向け、具体的な一歩を踏み出しましょう。